三叉鏨文笄 無銘 -Mumei- 16-267
通常価格:¥38,500
税込
三叉鏨文笄
無銘
-Mumei-
全長10.78センチ 幅8.2ミリ 重さ6.1グラム
江戸中期~後期 The middle to late Edo period
附属 桐箱
三叉鏨文は、3方向へ枝分かれする小さな鏨を地へ繰り返し打ち込み、その痕跡の集合によって濃淡と流れを作る抽象文様です。花鳥や人物を直接描かず、鏨の形、打つ角度、間隔、重なりだけを意匠とするため、一見簡潔でありながら職人の手加減がそのまま表情に現れ、同じ刻印の反復から織物や霞のような景色を生み出す点に独特の魅力があります。
本作は温かみのある黄銅色の地で仕立てた小振りな笄で、丸く整えた胴の上半へ三叉状の鏨文を密に打ち込み、下方には文様を置かず広い素地を残しています。鏨は単純な横列へ揃えるのではなく、群れごとに向きと密度を変え、互いの先端を重ねたり間を空けたりしながら斜めに連ねているため、文様面には雲がたなびくような動きと奥行きが生まれています。
文様の下端には1本の横線を引いて装飾面を明確に区切り、密集する鏨文から滑らかな地へ移る境を端正に整えています。金銀の色絵や高彫による華やかさを用いず、1打ごとの凹凸と地金の柔らかな光沢だけを主役にしているため、正面からは渋い地文として静かに見え、斜めから光を受ければ無数の刻印が細かな陰影となって順に浮かびます。
裏面には長い縦方向の鑢目を揃え、表の点状文様とは異なる直線的な地肌を見せており、表裏を返すことで鏨と鑢という2つの金属表現を味わえる構成です。具象画題を持たないため季節や拵の主題を選ばず、古色を帯びた黄銅地も鉄地や赤銅地の金具へ合わせやすく、小振りながら確かな個性を示します。華麗な色絵とは異なる職人的な美、手仕事の反復が作る抽象性、掌中へ収まる素朴な古雅を好まれる方に、じっくり鑑賞していただきたい一品です。