海浜茅屋図笄 無銘 -Mumei- 16-265
通常価格:¥121,000
税込
海浜茅屋図笄
無銘
-Mumei-
全長20.42センチ 幅12.4ミリ 重さ28.7グラム
江戸中期~後期 The middle to latter Edo period
附属 桐箱
海浜茅屋図は、水辺に簡素な住まいを置いて自然と寄り添う暮らしを表し、俗世の喧騒から離れた閑寂の境地を想像させる山水画題です。海辺の風景を細長い笄の胴へ収めるためには、奥行きの異なる景物と空の余白を限られた画面の中で調和させる必要があり、その構成力そのものが大きな見どころとなります。
本作は温かみのある色調を呈する宣徳地へ、中央に茅葺の家屋を2軒配し、その周囲を岩、松、柳の木で囲みながら、左右に青海波状の波を巡らせ、右上にはたなびく雲と2羽の雁を添えています。近景の集落から波の向こうに開ける空へ自然に視線が導かれ、小さな胴の中に広々とした海浜の眺望が生まれています。
青海波状の弧は一定の調子で連ね、枝葉、屋根、柱、岩肌には対象ごとに鏨の運びを変えることで、同系色の地金だけを用いながら各部の質感を明瞭に描き分けています。深く彫り下げて黒味を残した部分と、明るく磨かれた面との対照が陰影を作り、わずかな線で捉えた雁の姿に至るまで、近くで見込むほど細密な仕事を味わえます。
裏面は文様を置かず、長く伸びる輪郭と地金の古色をそのまま見せる簡潔な仕立てとし、表面へ凝縮された彫景を引き立てています。華やかな色金に頼らず、彫りの深浅と地金の明暗だけで静かな海浜風景を描き出した味わい深い笄であり、手元で傾けるたび光と影が移ろって新たな細部が現れます。桐箱を開くたび小さな景勝地を迎えるような趣を備え、風景図や海浜意匠を好まれる方に長く愛玩いただきたい、落ち着いた品格と鑑賞の深さを併せ持つ一品です。