波兎図割笄 無銘 -Mumei- 16-258
通常価格:¥198,000
税込
波兎図割笄
無銘
-Mumei-
全長20.8センチ 幅10.9ミリ 重さ34.6グラム
江戸中期~後期 The middle to late Edo period
附属 桐箱
波兎は、月と縁の深い兎を勢いある波と取り合わせた古くから親しまれる意匠であり、柔らかな獣の姿と絶えず形を変える水の動きを対照させることで、飛躍、生命力、難を越えて進む力を感じさせます。因幡の白兎を連想させる画題でもありますが、本作には物語を限定する人物や鮫を置かず、波間へ身を躍らせる兎の一瞬を純粋に捉えた構成となっています。
温かみのある素銅色の地へ幾筋もの線を丹念に刻み、流れの方向と間隔を少しずつ変えながら、耳掻側から棹へ押し寄せる波濤を表しています。その中央に高彫した兎へ豊かな金色絵を施し、耳を伏せ、前脚を伸ばして波間へ飛び込むような姿を斜めに配することで、細長い画面の中に明確な速度と躍動を生み出しました。波間に散る小さな銀色の飛沫も、金の兎を過度に華美に見せず、澄んだ水のきらめきとして画面へ軽やかなリズムを添えています。
耳掻側には深い黒味の赤銅を斜めに継ぎ、素銅の柔らかな赤味と鮮明な対照を作っています。この切り替えは単なる素材の継ぎ目ではなく、波の傾きと呼応して画面を引き締める意匠として働き、赤銅の黒、素銅の赤、兎の金、飛沫の銀という4つの色調が小さな面積の中で過不足なく響き合います。耳元の蕨手状の彫りも左右を端正にまとめ、割笄を合わせた際の輪郭へ品格を添えています。
2本を合わせると中央の合わせ目を越えて波濤が連なり、兎がその流れを横切る1幅の絵として完成する一方、分ければ左右で異なる波の彫りと地金の構成を確かめることができます。裏面は素銅地を広く見せて表の濃密な文様を引き立て、長い棹へ続く穏やかな古色が華やかな胴との釣り合いを整えています。愛らしい画題を精巧な線刻と色金の対照で格調高くまとめた本作は、動物意匠を好まれる方はもちろん、割笄の技巧と色彩の美しさをともに味わいたい方にも強くおすすめできる、展示映えに優れた一品です。