貝尽図割笄 無銘 -Mumei- 16-252
通常価格:¥143,000
税込
貝尽図割笄
無銘
-Mumei-
全長20.44センチ 幅10ミリ 重さ30.9グラム
江戸中期~後期 The middle to late Edo period
附属 桐箱
割笄は、二本を合わせることで通常の笄と同じ伸びやかな姿を成し、必要に応じて左右へ分けられる構造を備えた刀装具です。単に一枚の地金へ装飾を施す笄とは異なり、分割した双方の幅、反り、厚みを揃え、耳から棹、穂先までを一体に見せる精度が求められるため、その構造自体にも金工の技術と工夫が表れます。本品は無銘ながら、二本を合わせた際の輪郭が端正に整い、落ち着いた暗褐色の地金と金色の装飾が調和した、鑑賞性の高い割笄です。
画題の貝尽は、蛤を思わせる二枚貝や巻貝など、姿の異なる貝を取り合わせて海辺の豊かな景色を表す伝統的な意匠であり、平安時代以来の貝合わせや潮干狩り、磯遊びの雅趣にも通じています。二枚の殻が一対となる蛤には夫婦和合や良縁の祝意が重ねられ、さまざまな貝を集めた構成には海の恵みと繁栄への願いも感じられるため、季節感と吉祥性を兼ね備えた画題として絵画や工芸に親しまれてきました。
本品では、貝殻の丸みや襞、渦を細かな鏨使いで彫り分け、その周囲へ海藻と水泡を思わせる点景を添えることで、細長い笄の胴へ磯辺の景色を凝縮しています。貝や海藻の一部に施された金色絵は暗褐色の地から鮮やかに浮かびながらも過度に華美へ傾かず、彫りの陰影と地金の穏やかな古色を引き立て、正面からは整った文様の流れ、角度を変えれば高低差のある彫刻と金色の輝きが現れるため、手元で眺めるほど新たな見どころを見いだせます。
とりわけ巧みなのは、中央の合わせ目を意識させながらも、二本を一つに重ねたときに貝と海藻の景色が自然に連続する構成であり、分けて見れば各片に独立した細工を楽しめ、合わせれば一幅の磯辺図としてまとまる点に割笄ならではの趣向があります。耳は左右の形を揃えて金色の装飾で明るく引き締め、穂先にも同系統の金色を配することで、長い輪郭の始まりと終わりへ視線を導き、裏面には斜めに走る鑢目を整然と施して表の華やかな意匠との対照を作り出しています。
貝尽という雅やかで縁起の良い画題、二本が美しく合わさる精巧な構造、暗褐色の地へ静かに映える金色絵を一度に味わえるところが本品の大きな魅力です。拵へ合わせた際には細身の姿が品よく収まり、桐箱から取り出して単体で鑑賞すれば、貝殻の細線、海藻の起伏、水泡の点景、裏面の鑢目に至るまで細部を読み解く楽しみがあり、割笄という特色ある形式や海辺の意匠、古色を帯びた色金の調和を好まれる方へおすすめしたい、収集価値のある一作です。