舌切雀図透鐔 無銘 -Mumei- 12-1870
通常価格:¥198,000
税込
舌切雀図透鐔
無銘
-Mumei-
縦72.2ミリ 横69.8ミリ 切羽台厚5.63ミリ
重さ95.5グラム
江戸中期 The middle Edo period
舌切雀は、老人が山へ柴刈りに出ている間に、老婆が洗濯のために用意した糊を雀が食べてしまい、怒った老婆に舌を切られて山へ逃げたことから物語が始まる、日本を代表する昔話の一つです。その後、雀を案じて山へ訪ねた老人は歓待を受け、小さな葛籠から宝を得る一方、欲深い老婆が選んだ大きな葛籠からは化け物が現れるという展開を通して、慈愛と強欲の対照を描く報恩譚として広く親しまれてきました。
本品は人物や葛籠を直接描かず、物語を象徴する雀、柴束、洗濯物を入れた盥、流水を一枚の鐔面へ取り合わせることで、舌切雀の発端を巧みに暗示しています。上部には顔を上方へ向けて飛び去る雀を大きく配し、その眼へ小粒の金象嵌を置いて生気と視線の方向を際立たせ、右辺には老人の柴刈りを示す柴を縄で固く結んだ束、左下には流れる川の水と、その上へ洗濯物を収めた木製の盥を表しています。
右側の柴束は細い枝を一本ずつ彫り分け、中央を縄で締めた様子まで写実的に表す一方、盥は口縁と側面の箍を肉厚に彫り出し、その内側から洗濯物が覗く構成によって、限られた空間の中に確かな奥行きを作り上げています。左斜めに走る流水は細い鉄線を幾重にも巡らせ、盥の周囲から下辺へ波頭を立ち上げながら柴束の足元へ繋がり、静物として配された道具に流動感を与えると同時に、老婆が川辺で洗濯する物語の舞台を簡潔に示しています。
上方の雀は短い嘴と丸みを帯びた頭部、重なり合う翼の羽列、胸元の細かな羽、長く伸びる尾羽まで彫り分け、上を仰ぎながら鐔面の外へ飛び去ろうとする姿に、糊を食べて追われた雀の切迫した一瞬を重ねています。人物を一人も登場させず、柴束によって山へ出た老人を、盥と洗濯物によって老婆と糊の出来事を、飛ぶ雀によって物語の核心を想起させる構成は、鑑賞者に画題を読み解かせる知的な趣向に富み、昔話を題材とした刀装具ならではの洒落味を感じさせます。
5.63ミリの厚みと95.5グラムの量感を備え、透かし際にも十分な肉を残した堅実な造りであり、肉厚な地鉄、古風な茎穴、落ち着いた鉄味、耳際まで破綻なく繋げた複雑な透かしの構成には江戸中期らしい力強さが表れています。華やかな色金に頼らず雀の眼だけへ金象嵌を置いた抑制ある表現も効果的で、離れて見れば雀と柴束を大胆に組み合わせた力強い透かし、手元では盥の洗濯物や流水まで読み解ける物語性を楽しめるため、昔話図、民俗図、写実的な鉄鐔を好まれる方へおすすめしたい、構想と彫技の双方に見応えを備えた作品です。