雲龍波濤図鐔 無銘 -Mumei- 12-1862
通常価格:¥242,000
税込
雲龍波濤図鐔
無銘
-Mumei-
縦76.8ミリ 横73.6ミリ 切羽台厚4.0ミリ
重さ127.8グラム
江戸中期~後期 The middle to latter Edo period
附属 桐箱
龍は水を司り、雲を呼んで天へ昇る霊獣として、古くから権威、守護、飛躍を象徴し、武具や刀装具にも好んで採り上げられてきた吉祥の画題です。なかでも雲龍と波濤を組み合わせた意匠は、天上に渦巻く雲と地上で逆巻く水を一つの画面へ収めることで、龍の霊威と自然の壮大な動勢を同時に表せるため、鐔の円形に映える力強い題材として親しまれました。
本品は丸形の赤銅無垢地を舞台に、表面の下部へ幾重にも押し寄せる激しい波を置き、上方には雲間を進む一体の龍を大きく描いています。龍は雲気の渦から頭部を現し、角、眼、鼻梁、髭、牙、鱗を細かな鏨で追いながら、うねる胴を鐔の外周に沿わせるように展開し、その下では大きく反り返る波頭と細かな飛沫が重なり合って、天上の雲と海上の荒波が呼応する緊迫感ある景色を作り上げています。
龍、雲、波のすべてを片切彫で表している点が本作の大きな見どころで、鏨を斜めに切り込んで生じる線の太細と深浅だけを用い、肉を高く盛り上げることなく立体感と遠近を引き出しています。龍の輪郭には鋭く深い線、鱗や髭には細く繊細な線、雲と波には弧を連ねる勢いのある線を使い分けており、光を受ける角度によって彫溝の片側が明るく浮かび、赤銅一色の画面でありながら龍が雲間から姿を現し、波が次々と砕けるような変化を楽しめます。
裏面は龍を置かず、下部に激しい波濤、上部にたなびき渦巻く雲のみを配した構成で、表面の物語を支える自然の景観として簡潔にまとめています。龍を主役に据えた表面に対し、裏面では波頭の重なりと雲の広がりへ視線を導くため、鐔を返すことで華やかな主景から静かな余韻へ移る趣向となり、表裏を同じ図で繰り返さず異なる表情を持たせた点にも作者の構成力がうかがわれます。
地は鉄ではなく、銅へ少量の金(約3~5%)を加えて煮色によって黒紫色に発色させる赤銅を無垢で用いており、表面だけを赤銅で覆った造りではありません。127.8グラムに及ぶ豊かな量感は、地金そのものに相応の価値を備えると同時に、広い赤銅地へ雲龍と波濤を彫り込むために多くの材料と手数を惜しまなかったことを物語り、深い黒味の中で片切彫の線が光を受けて浮沈する景色も赤銅無垢地ならではの魅力です。
金銀の色絵に頼らず、深い黒紫色を呈する赤銅地と片切彫の陰影のみで雲龍と波濤の迫力を描き切った、簡潔さの中に確かな技量を感じさせる一枚です。十分な大きさと127.8グラムの充実した量感を備え、正面では龍の威容、斜めからは鏨線の深浅、裏面では雲波の流動感をそれぞれ味わえるため、龍図鐔を収集される方はもちろん、赤銅地特有の深い色合いと彫技をじっくり鑑賞したい方にもおすすめできる、堂々とした作域の鐔です。