雲波に雨龍図鐔 無銘(江戸肥後) -Mumei (Edo Higo)- 12-1853
通常価格:¥132,000
税込
雲波に雨龍図鐔
無銘(江戸肥後)
-Mumei (Edo Higo)-
縦84.75ミリ 横80.5ミリ 切羽台厚3.6ミリ
重さ148.5グラム
江戸後期 The latter Edo period
江戸肥後は、江戸後期から幕末にかけて江戸四谷で活動した熊谷派を中心とする金工を指し、本国肥後の金工が育んだ鉄味と象嵌技法を受け継ぎながら、江戸好みの華やかさを加えた作風で知られています。本品は無銘ながら、大振りで量感のある鉄地、雲波を巡らせた大胆な構成、金銀の布目象嵌を効果的に用いる手法に江戸肥後の特色がよく表れているため、無銘(江戸肥後)としてご紹介します。
表面の上方には金布目象嵌の雨龍が軽やかに進み、その下を銀布目象嵌による雲と波が巡り、渋い鉄色の上で金と銀の景色が鮮やかに呼応します。龍は水を司る霊獣として古くから尊ばれ、立身出世、飛躍、守護を象徴する吉祥の画題であり、雨を呼ぶ龍と雲波を一つの画面へ取り合わせた本作には、豊かな水の恵みと力強い上昇の気が込められています。
雨龍は口を開き、丸みを帯びた顔にどこか愛嬌のある表情を見せ、くねりながら伸びる身と踏み出す四肢には軽快な動きが宿っています。金布目象嵌の細かな網目は鱗や身体の起伏に沿って打ち込まれ、光を受けるたびに龍の姿が雲の間から生き生きと浮かび上がり、鋭さだけに偏らない親しみのある造形が本品ならではの魅力となっています。
左右の櫃穴を取り巻く雲と下方に重なる波には銀布目象嵌を施し、淡い銀色が鉄地に溶け込むような落ち着いた表情の中から、上方の雨龍と下方へ続く尾の金色が鮮やかに現れ、布目の細かな仕事と透かされた櫃穴の形とが画面に奥行きとリズムを与えています。
裏面には銀布目象嵌の雲と波を大きく巡らせ、表の賑わいから転じて水気を含んだ空の広がりを見せるため、表裏を返すたびに金色の雨龍と静かな銀の景色を交互に味わうことができます。銀布目象嵌には時代を経た摩耗が見られるものの、鉄地へ刻まれた雲波の輪郭と布目の痕跡は明瞭に残り、深い古色の中へ淡く沈む銀色がかえって落ち着いた時代感を生み出しています。80ミリを超える大きさと148.5グラムの確かな量感、金の雨龍が放つ華やかさ、雲波が作る雄大な景観を一つに備え、江戸肥後の装飾性と鉄鐔としての力強さを存分に楽しめる、佩刀の装いにも手元での鑑賞にも映える作品です。