松下高士漁夫図鐔 無銘 -Mumei- 12-1848
通常価格:¥132,000
税込
松下高士漁夫図鐔
無銘
-Mumei-
縦83.3ミリ 横77.3ミリ 切羽台厚3.7ミリ
重さ142.5グラム
江戸中期 The middle Edo period
画題は、松樹の下に坐す中国の高士と、水辺に舟を浮かべて釣りをする漁夫を表したものです。松下の高士は俗世の喧騒から離れて思索に耽る隠逸の境地を、釣舟の漁夫は名利を求めず自然とともに生きる閑雅な暮らしを象徴し、表裏を通して中国山水画に通じる静謐な世界を構成しています。特定の人物や故事を示す明確な持物は見られないため、菊慈童などへ限定せず、松下高士と漁夫を取り合わせた画題として紹介するのが相応しい作品です。
表面右方には幹をくねらせながら上方へ伸びる松を配し、放射状に広がる松葉を真鍮象嵌で一房ずつ際立たせ、その根元には右手に杖を携え、幹へ身を預けるように坐す髭深い高士を表しています。人物は束ねた髪へ中国で小冠、あるいは束髪冠と呼ばれる小さな冠を戴き、顔と手を銀の色金で明るく浮かび上がらせる一方、冠を留める冠緒、腰の帯紐、沓の縁へ金色絵を添え、黒い衣と鉄地の中へ端正な色彩のアクセントを生み出しています。右手の杖から腰を落とした姿、衣の皺、長く垂れる髭まで細やかに彫り分けられ、人物の静かな思索と年齢を重ねた風格が伝わります。
人物の足元から左下へは起伏ある岩と笹葉を連ね、岩肌や葉の一部へ点々と金象嵌を置くことで、暗い山中に差す光のような奥行きを加えています。83ミリを超える大振りな鐔面を細部で埋め尽くさず、右方へ松と人物、下方へ岩と笹を寄せ、広く残した鉄地を山中の深い空気として生かした構成は大胆で、真鍮の松葉、銀の面貌、金の小さな点景が互いに競うことなく主題を引き立てています。
裏面には急な斜面の河岸と葦、その右方に流れる川を表し、笠を被った人物が小舟の上から釣糸を垂れる景を置いています。舟の一部、波飛沫、岩肌へ施した金象嵌は控えめながら効果的で、表面の松下高士が示す山居の静けさを、水上に遊ぶ漁夫の風情へ自然に繋げています。鉄地の重厚な量感と古色、彫りの深浅、真鍮・銀・金を使い分けた色彩、表裏で山と水の隠逸境を味わえる物語性が一体となり、大振りな画面を眺めるたび細部から新たな景色が現れる、人物図鐔として見応えのある作品です。