古木図鐔 武州住正親 -Bushu ju Masachika- 12-1842
通常価格:¥198,000
税込
古木図鐔
武州住正親
-Bushu ju Masachika-
縦71.95ミリ 横69.3ミリ 切羽台厚4.9ミリ
重さ111.1グラム
江戸中期~後期 The middle to latter Edo period
正親は木谷姓、通称を富蔵と伝える武州伊藤派の金工で、延享3年(1746)に生まれ、寛政9年頃(1797頃)まで活躍しました。伊藤正常の門に学び、江戸浅草堀田原に住して「武州住正親」と銘を切った工として知られています。現存作には鉄地へ量感豊かな鋤出彫を施して金象嵌を効果的に交えた鐔が確認され、本品の銘と、鉄地の彫りを主役に据えて金を抑制的に配する表現もその作域によく合致しています。
古木は風雪を受けながら長い年月を生き抜く姿に長寿や不屈の意味を重ねる画題であり、節、洞、曲折する木目そのものが景色となるため、鉄の強さと深い色合いを生かすのに適しています。本品は樹木の全景を描くのではなく、鐔そのものを一片の古木へ見立て、表裏のほぼ全面へ複雑にうねる木目を刻した大胆な意匠で、年輪の流れが切羽台や櫃穴を包み込み、所々に現れる節が単調になりがちな木肌へ力強い変化と歳月の趣を与えています。
木目は同じ間隔で機械的に並べるのではなく、節を避けながら密集し、分かれ、再び合流する自然な流れとして彫り分けられ、星形や不定形の小透かしが虫食いや朽ち込んだ洞を思わせる陰影を生み出しています。各所には小粒の金象嵌を木目に沿わせるように散らし、深い黒褐色の鉄地へ控えめな光を添える一方、表面上方にのみ短冊形の金布目象嵌を置き、流動的な木目の中へ端正な直線を加えて画面を鮮やかに引き締めています。裏面ではこの短冊形の象嵌を用いず、木目、節、小透かし、点在する金象嵌によって古木の表情を見せるため、表裏を返すことで趣向の違いも楽しめます。
切羽台には「武州住正親」と銘が切られ、量感ある鉄地へ深く刻まれた木目と節、わずかな金を的確に利かせる色彩感覚には、武州伊藤派の金工らしい鉄への深い理解と洗練された構成力が表れています。鐔全体を古木へ転じた発想の面白さに加え、光の角度を変えるたび彫りの高低と象嵌の輝きが移ろい、近くで見込むほど新たな景色が現れる、作者の個性と鑑賞性を兼ね備えた魅力ある作品です。