黒漆塗練革鐔 無銘 -Mumei- 12-1835
通常価格:¥88,000
税込
黒漆塗練革鐔
無銘
-Mumei-
縦74.2ミリ 横71.4ミリ 切羽台厚4.8ミリ
重さ23.5グラム
江戸前期~中期 The early to middle Edo period
本作は革を幾重にも重ねて圧着、成形した地へ黒漆を塗り重ねた、端正な木瓜形の練革鐔です。刀剣博物館の解説にも、練革を厚く重ね合わせて作る革鐔が古くから用いられたことが示されており、鉄や色金を素材とする鐔とは異なる軽さ、弾力、漆肌の柔らかな光沢を備えています。縦74.2ミリ、横71.4ミリという堂々とした大きさを持ちながら重さはわずか23.5グラムで、手に取った際の軽やかさと、見た目の量感との意外な対照は、写真だけでは伝わりにくい本作ならではの魅力です。
輪郭は上下を尖らせ、左右へ緩やかな張りを持たせた木瓜形に整えられ、外周にはわずかな段差を設けて耳を立ち上げることで、無文でありながら引き締まった立体感を作り出しています。中央の切羽台も楕円形に1段高く盛り上げ、その左右へ形の異なる両櫃穴を開けており、黒漆のみでまとめた静かな画面へ輪郭線と高低差だけで変化を与えた造形は簡潔にして端正です。華美な彫刻や色金を用いず、木瓜形の曲線、切羽台の楕円、櫃穴の空間を均衡よく組み合わせた姿には、素材の持ち味を生かした古雅な美しさが感じられます。
表面を覆う黒漆は深く落ち着いた艶を呈し、耳の丸みや切羽台の盛り上がりに沿って光が静かに移ろうため、角度を変えるたび平滑な面の中から穏やかな陰影が現れます。櫃穴や茎櫃の縁、漆が開いた箇所からは内部の赤褐色を帯びた革地を確認でき、金属を芯とした鐔ではなく、革を積層して形を作った構造を実物から観察できる点も興味深いところです。練革をむらのない厚さにまとめ、左右の張りと上下の尖りを崩さずに成形したうえで、漆によって表面を固めて耐久性と美観を与える工程には、革工と塗師の素材に対する深い理解が表れています。
表裏には経年による細かな擦れがあり、裏面には漆の塗りに亀裂が見られるものの、輪郭、耳、切羽台、両櫃穴は本来の姿をよく保ち、長い年月を経た練革特有の古色と風合いを今日へ伝えています。革を主体とする鐔は湿度や乾燥の影響を受けやすく、金属鐔に比べて現存例が少ないため、本作は刀装具に用いられた素材と技法の広がりを示す実物資料としても価値があります。黒漆のみでまとめた潔い姿は、精緻な彫金鐔や色絵鐔と並べても異なる存在感を放ち、時代拵に合わせて楽しむことはもちろん、練革、漆工、武具の実用美へ関心を持つ方におすすめしたい、素朴さの中に確かな格調を備えた希少な鐔です。