蟹尽図鐔 無銘 -Mumei- 12-1834
通常価格:¥121,000
税込
蟹尽図鐔
無銘
-Mumei-
縦84.2ミリ 横81.05ミリ 切羽台厚4.1ミリ
重さ148.0グラム
江戸中期 The middle Edo period
本作は四方を緩やかに張り出させた木瓜形の鉄地へ、ほぼ同じ大きさと姿の蟹を表裏に散らした「蟹尽」の鐔です。広い鐔面を水辺に見立て、同形の蟹を向きと位置を変えながら配することで、反復する姿に心地よい調子を生み出し、潮の引いた磯辺に蟹の群れが広がるような生命感に満ちた景色を作り上げています。蟹の間へ点在させた金の丸い象嵌は、水面に浮かぶ泡や光の粒を思わせ、黒褐色の落ち着いた鉄地へ明るい律動を添えています。
蟹は硬い甲羅と大きな鋏を備え、敵に対して後退せず横へ進む姿から、尚武の気風に通じる生き物として武具の意匠にも好まれました。甲羅を鎧、鋏を武器に見立てることのできる勇壮さを持ちながら、丸みを帯びた姿と忙しなく伸びる脚には親しみやすい愛嬌もあり、本作ではその二面性を金、銀、鉄地の色調によって巧みに引き出しています。なかでも表面右上の銀色の蟹は、周囲の金色の蟹と鮮やかな対照をなし、見る者の視線を自然に導く要所として画面全体を引き締めています。
それぞれの蟹は甲羅をふっくらと盛り上げ、左右へ開く鋏、節を重ねて伸びる脚、甲羅に刻んだ表情まで細やかに表し、ほぼ同形の姿を一定の間隔で散らすことによって、文様としての統一感と軽快な反復の面白さを生み出しています。金色の蟹は黒い地から明るく浮かび、銀色の蟹は涼やかな輝きを放ち、地鉄の色を生かして表した蟹は一見して目立たないものの、光の角度を変えると輪郭が静かに現れるため、手元で探すように鑑賞する楽しみがあります。表裏で蟹の配置を変えながら意匠を途切れさせず、耳に沿って巡る木瓜形の曲線と蟹の丸い甲羅を響き合わせた構成にも、図案をよく練った金工の感覚がうかがえます。
裏面には蟹一匹分の象嵌が外れた箇所があり、地板にはその輪郭と取付けの痕跡が残っていますが、長い年月を経て受け継がれてきた本作の来歴を物語る部分でもあり、その他の金銀の蟹や点在する丸い象嵌はよく残されています。この欠失を考慮しても、縦84.2ミリ、重さ148.0グラムという大振りで量感豊かな鉄地へ、表裏を通して多くの蟹を配した内容は充実しており、離れて眺めれば金銀が華やかに散る全体像を、近くで見込めば高彫の立体感や一匹ごとに異なる姿を味わえます。力強い鉄味と親しみやすい画題、豊富な色金を一度に楽しめ、海辺の情景を主題とする拵へ取り合わせる場合はもちろん、飾っても印象に残る存在感を備えた、遊び心あふれる見応えのある鐔です。