唐団扇図鐔 無銘 -Mumei- 12-1831
通常価格:¥110,000
税込
唐団扇図鐔
無銘
-Mumei-
縦70.1ミリ 横66.7ミリ 切羽台厚4.5ミリ
重さ100グラム
江戸前期~中期 The early to middle Edo period
唐団扇は中国風の意匠を採り入れた団扇で、仙人や高士の持物として絵画や工芸品に表され、俗世を離れた清雅な境地や異国への憧れを感じさせる画題として刀装具にも用いられてきました。本品は人物や風景を添えず、広い鉄地の片側へ唐団扇だけを大きく置くことで、その特徴的な姿を際立たせています。画面の大半をあえて無文のまま残しながら、団扇から垂れる緒を長く伸ばして視線を下方へ導く構成には、余白を単なる空所にせず静かな気配へ変える巧みさがあり、黒褐色の地鉄に浮かぶ簡潔な意匠が、落ち着きの中にも忘れ難い個性を生み出しています。
最大の見どころは唐団扇の表現方法で、鉄地の表面を浅く彫り窪めて色金を載せた据紋ではなく、団扇の形に地を完全に透かしたのち、深い黒味を呈する赤銅と温かな赤味を持つ素銅を嵌め込んだ、切嵌象嵌とみられる手の込んだ造りです。鐔の厚みを貫く形で色金を収めるこの仕事には、透かした輪郭と嵌め込む部材を正確に合わせる技量が求められ、わずかな寸法の狂いも隙間や緩みとして現れるため容易ではありません。本品では赤銅の団扇面、素銅の留金と緒が鉄地へ滑らかに納まり、表裏の双方から同じ意匠を鑑賞できるとともに、斜めから見込めば黒い鉄と色金が一枚の鐔面へ組み合わされた構造まで味わえます。
耳には宣徳とみられる真鍮地の覆輪を巡らせ、一定の間隔で節を刻んで竹の幹を思わせる姿へ整えています。覆輪は鐔の外周を保護する実用的な部材である一方、本品では緩やかな起伏と連続する刻線によって耳そのものを装飾へ変え、落ち着いた金色が黒い地鉄を鮮やかに縁取りながら、唐団扇が持つ唐様の趣とよく響き合っています。さらに小柄櫃穴にも山銅、あるいは宣徳の可能性がある色金の覆輪を施し、無機質になりやすい櫃穴の輪郭へ柔らかな色調と丁寧な仕立てを添えているため、中央部から外周まで作者の趣向が途切れません。
切羽台にはしっかりとした量感を残し、地には鍛えた鉄ならではの細かな凹凸と歳月を経た黒褐色の肌合いが広がり、均一に磨き上げた地とは異なる奥深い景色を見せています。そこへ赤銅の深い黒、素銅の柔らかな赤、宣徳とみられる覆輪の渋い金色が加わることで、色数を抑えながらも豊かな階調が生まれ、正面では簡潔で端正な図柄、斜めからは覆輪の起伏と切嵌象嵌の厚み、手元では鉄と色金の質感の違いというように、鑑賞する距離によって見どころが移ろいます。
厚手で力強い鉄地、余白を大きく取った古様な構成、表裏へ通した切嵌象嵌、竹節状の真鍮覆輪が調和し、一見した際の静かな佇まいの内側に、複数の色金と高度な嵌入技法、耳と櫃穴にまで及ぶ細やかな装飾を秘めています。華美な高彫鐔とは異なる渋さと、手に取るほど発見の増す趣味性を備えた、古鐔ならではの魅力に富む一枚です。