格子透鐔 無銘(京透) -Mumei (Kyo-sukashi)- 12-1830
通常価格:¥165,000
税込
格子透鐔
無銘(京透)
-Mumei (Kyo-sukashi)-
縦77.0ミリ 横77.6ミリ 切羽台厚3.0ミリ
重さ71グラム
江戸前期 The early Edo period
附属 保存刀装具鑑定書
京透は平安城透とも呼ばれ、京都を中心に制作された鉄地地透鐔の一群です。その始まりは室町中期頃、足利将軍家の好みに応じて作られたという伝承があり、室町後期から桃山時代にかけて作風が洗練され、江戸前期へ受け継がれました。独立した一人の祖から派生した流派というより、京都の鐔工たちが育てた京好みの透鐔様式と捉えるのが相応しく、比較的薄手の鉄地を平坦に仕立て、細く均整の取れた線で文様を透かし、鉄と余白の釣り合いによって端正な構図を作り上げる点を特色とします。草花、家紋、器物などを簡潔に図案化し、強さの中にも優美さと品格を感じさせる作風は、後世の透鐔にも大きな影響を与えました。
本品は角に穏やかな丸みを持たせた輪郭の内側へ細かな格子を巡らせ、中央に広く取った切羽台との対照によって、障子や御簾を思わせる整然とした景色を作り上げています。華やかな色金や具象的な画題に頼らず、縦横に交差する鉄の線と透かされた余白のみで画面を成立させた構成は簡潔でありながら印象深く、静かな緊張感の中に京都で育まれた洗練と品格を感じさせます。格子は古くから建築や調度に用いられてきた日本人に馴染み深い文様であり、規則正しい線の連なりには秩序と端正さが宿るため、刀装へ取り入れた本作にも過度な装飾とは異なる、凛として知的な趣が備わっています。
格子文は一見単純であるほど作り手の技量が隠せず、升目の幅、縦横の線の太さ、交点の位置にわずかな乱れが生じれば、画面全体の均衡が崩れてしまう難しい意匠です。本品では多数の升目をほぼ均一に揃えながら、丸みを帯びた外形へ無理なく収まるよう周縁の間隔を細やかに調整し、細い鉄線を途切れることなく連続させているため、透けの軽快さを見せつつ鐔としてのまとまりも失っていません。中央の切羽台を広く残したことで、装着時には柄と鞘の間に据わる中心が力強く安定し、その周囲へ広がる細密な格子がいっそう軽やかに見える構成となっています。
手に取って眺めれば、歳月を経て落ち着いた黒褐色を呈する鉄地と、細く整えられた透かしの輪郭が互いを引き立て、正面からは端正な幾何学文様として、斜めからは薄手の地鉄が作る繊細な奥行きとして鑑賞できます。透かしを通る光は背景によって印象を変え、白地では格子の構造を明快に浮かび上がらせ、黒塗鞘の上では文様が静かな陰影となって沈み、朱塗や変り塗の鞘へ合わせれば華やかな色調を引き締めるため、単独で飾る場合にも拵へ実装する場合にも異なる魅力を発揮します。表裏を返しても構成が破綻せず、見る角度や光の強さによって鉄と余白の比重が移ろうところも、地透鐔ならではの鑑賞上の楽しみです。
日本美術刀剣保存協会の保存刀装具鑑定書が附属し、無銘ながら京透と極められた一枚であり、流派の特色を明確に示す均整の取れた造形、精度を要する格子透、長い年月によって深みを増した鉄味を併せて味わえます。草花や人物を描いた鐔とは趣を異にする、余白そのものを意匠として生かした潔い造形は、時代を超えて飽きることがなく、京透を代表する端正な美意識を手元でじっくり楽しみたい方はもちろん、品格ある古鐔を拵へ取り合わせたい方にもおすすめしたい、静かな存在感に富んだ鐔です。