奴凧図小柄 萬々齋壽随 -Manmansai Toshiyuki- 16-246
通常価格:¥330,000
税込
奴凧図小柄
萬々齋壽随
-Manmansai Toshiyuki-
全長97.0ミリ 幅14.0ミリ 重さ29.0グラム
江戸中期 The middle period of Edo era
附属 保存刀装具鑑定書、桐箱
壽随は浜野派の金工で、同派の祖・浜野政随の高弟として知られる矩随に学び、18世紀中頃に活躍したと伝えられ、「萬々齋」の号を用いて人物や故事、身近な風物を巧みに金属の画面へ移した作を残しており、本品にも奈良派の流れを汲む浜野派の伝統を基礎としながら、深く落ち着いた四分一地を広く生かし、わずかな色金と繊細な線で主題を鮮やかに立ち上げる洒脱な感覚がよく表れています。
奴凧は、両腕を大きく広げた奴姿を象った江戸の代表的な凧で、正月の空を勇ましく舞う姿から厄を払い福を招く縁起物として親しまれ、その威勢の良い姿とどこか愛嬌を帯びた表情は江戸庶民の遊び心を象徴する意匠でもあり、本品では細長い小柄の画面へ小さな奴凧をあえて片寄せて配し、そこから伸びる一本の糸を金の細線で遠く画面の端まで引くことにより、目に見えない風と高い空の広がりを余白の中へ感じさせる、簡潔でありながら物語性に富んだ構図を完成させています。
表面は渋い灰黒色を呈する四分一磨地を背景とし、奴凧の顔、髪、衣装、手足を平象嵌と毛彫で細やかに描き分け、肩を張った特徴的な輪郭や衣の文様、胸元の色彩、口元の表情まで小さな画面の中へ凝縮するとともに、黒味を帯びた袖の文様、金色に輝く衣、赤味を添える素銅色の対照が人物の愛嬌を引き立て、そこから斜めに長く伸びる凧糸が静かな地面を横切ることで、凧が風を受けて今まさに舞い上がる一瞬の軽やかさを生み出しており、肉彫の量感に頼らず平象嵌の精度と線の美しさで奥行きを感じさせる壽随の感覚が堪能できます。
裏面には凧糸を巻き取る糸巻を金の平象嵌で表し、ほどけた糸を柔らかな曲線として遊ばせることで表の奴凧と一続きの情景を成立させ、表を見れば大空へ揚がる凧、裏を返せばそれを操る手元の道具へと視点が移る趣向は、表裏を往還しながら鑑賞する小柄という器物の性質をよく生かしたものとなっており、時代相応の穏やかな擦れを残しながらも四分一の色調と象嵌の魅力は十分に保たれ、保存刀装具鑑定書を備えることから銘と作品の来歴にも安心感があり、格調ある浜野派の技と江戸の遊び心、正月らしい吉祥性を一口で味わえる、収集にも贈答にも相応しい魅力豊かな小柄です。