初子日小松図小柄 無銘 -Mumei- 16-243
通常価格:¥198,000
税込
初子日小松図小柄
無銘
-Mumei-
全長97.3ミリ 幅14.3ミリ 重さ33.6グラム
江戸中期~後期 The middle to latter Edo period
附属 桐箱
初子日とは、正月最初の子の日に野へ出て若菜を摘み、根を伴う小松を引いて長寿と繁栄を願った古来の新春行事で、「子の日遊び」あるいは「小松引」とも呼ばれます。冬にも緑を失わない松の強い生命力にあやかり、引き抜いた根の長さへ末永い齢を重ねたこの風習は、平安貴族の遊宴や和歌にも採り上げられ、のちに絵画や工芸を彩る格調高い吉祥画題となりました。本品では人物や野辺の景色をあえて省き、根を付けた小松と昇る日輪だけを選び抜くことで、初子日の物語と新春の清新な気配を細長い小柄の中へ凝縮しています。
表は深い黒色を呈する赤銅魚子地とし、右端から姿を現す金色の日輪を背景に、一本の小松を画面いっぱいへ斜めに伸ばした、簡潔ながら動きに富む構成です。しなやかな幹から左右へ枝を振り分け、松葉を一針ずつ細く彫り分けながら、葉先や新芽へ金色絵を配することで、静かな黒地の上に若木の瑞々しい生命感を浮かび上がらせています。根は銀色に仕立てられ、細く分かれながら地を離れる姿を明瞭に示しており、この銀の根があるからこそ、単なる松樹ではなく、野辺から引かれた初子日の小松であることが一目で伝わります。
画面の端へ日輪の大半を隠し、弧を描く一部だけを見せた構成も巧みで、今まさに朝日が差し始める瞬間を思わせるとともに、余白を広く残した赤銅魚子地へ明快な緊張感を与えています。金色の日輪、黒々とした幹、銀色の根、金を交えた松葉が互いを引き立て、角度を変えるたびに色金の輝きと高彫の陰影が移ろうため、遠目には端正な吉祥意匠、手元では細かな魚子と松葉の鏨仕事を味わえる、鑑賞の奥行きに富んだ仕上がりです。
本品は黒い赤銅魚子地の地板を金色の小柄本体へ嵌め込んだ地板嵌込式で、外周の小縁と裏面には金の薄板を着せた手の込んだ造りです。黒い魚子地と金色の小縁の間に生じる明瞭な高低差が、細長い画面を額縁のように引き締め、表の意匠へ奥行きと格調を与えています。裏面は細かな縦筋を連ねた金の薄板で覆われ、表の沈着な赤銅色と裏の豊かな金色が鮮やかに対照しながら、日輪や松葉に置かれた金が裏面の華やぎへ自然につながるため、一口全体には確かな統一感があります。新春、長寿、繁栄、門出という幾重もの祝意を、品格ある赤銅魚子地と金銀の色彩へ託した本品は、古典画題の意味を楽しむ収集家はもちろん、祝いの品や節目を象徴する刀装具を求める方にもお薦めしたい、構造にも意匠にも見どころを備えた魅力的な小柄です。