平根矢図小柄(銘不詳小刀付) 無銘 -Mumei- 16-233
通常価格:¥121,000
税込
平根矢図小柄(銘不詳小刀付)
無銘
-Mumei-
小刀を含んだ全長219.9ミリ 小柄の全長95.9ミリ 幅14.1ミリ 小刀を含めた重さ44.0グラム
江戸中期 The middle Edo period
附属 桐箱
矢は武士の武威を象徴するとともに、狙いを定めて迷わず進む意志、邪気を射払う守護の力を託された意匠であり、破魔矢にも通じる清浄な意味を備えています。なかでも平根は、幅広く扁平に造られた鏃によって矢の先端へ堂々とした量感を持たせる形式で、その力強い輪郭と長く伸びる矢柄の端正な直線が、細長い小柄の形によく映える武家好みの画題です。
本品は精緻な魚子を一面へ打った黒々とした赤銅地に、一本の矢を画面いっぱいに伸びやかに据えた作品で、幅広い鏃から細い矢柄、整然と広がる矢羽へと視線が自然に導かれる、簡潔でありながら緊張感に満ちた構成となっています。平根の中央には桜花形の透かしを設け、武具としての鋭さの中へ桜の優美さを取り入れており、透かしを通して見える深い陰影が鏃の輪郭と厚みを一層際立たせます。
色彩は華美に重ねず、鏃と矢羽の一部に銀色絵のみを施し、赤銅魚子地の深い黒と銀の静かな光沢を鮮明に対照させています。鏃に添えられた銀色は平根の広い面を明るく引き締め、矢羽では一部だけを銀色に替えることで羽の重なりと左右の広がりに変化を与え、羽筋の細かな彫りも相まって、光の角度によって矢全体が凛と浮かび上がります。大きな鏃、真っ直ぐに伸びる矢柄、端正に彫り分けられた矢羽という三つの異なる造形が一つの流れを作るため、単独文様でありながら画面は決して単調にならず、正面では潔い武具意匠を、斜めからは鏃の量感や桜花形透かしの奥行きを楽しめます。
附属の小刀には銘が切られていますが、研磨によって文字が薄くなっており、現在ではその大部分を判読することが難しい一方、銘の最下部には「高」の字を読み取ることができます。作者名を確定するには至らないものの、銘を備えた時代小刀が小柄へ収まった本来の姿で伝わっていることは大きな魅力で、小柄に表された矢の鋭い直線と実際の刀身の姿が呼応し、装飾金具と鍛え物を一体として鑑賞できます。武家らしい潔い画題、桜花形透かしを備えた平根の趣向、赤銅魚子地と銀色絵の品格ある対照に加え、銘の痕跡を残す小刀まで揃った、細部を見込むほど味わいを増す収集性豊かな一口です。