鉄拐鍾離持物李白詩文小柄(藝州住藤原正光銘小刀付) 會津住政秋 -Aizu ju Masaaki- 16-221
通常価格:¥143,000
税込
鉄拐鍾離持物李白詩文小柄(藝州住藤原正光銘小刀付)
會津住政秋
-Aizu ju Masaaki-
全長206.8ミリ 小柄全長98.4ミリ 幅14.7ミリ 小刀を含めた重さ39.4グラム
江戸後期 The late Edo period
附属 桐箱
政秋は「會津住政秋」と銘し、江戸後期頃の会津で活動したとみられる刀装金工です。詳しい俗名や師系、生没年については広く伝わっていませんが、本作には居住地を伴う銘が明瞭に刻され、政秋の活動地と作風を今日へ伝えています。会津では江戸時代を通じて刀装金工が盛んに活動し、鉄地を生かした透、彫刻、象嵌から金銀や色金を用いた作品まで、幅広い刀装具が制作されました。本作にも、鉄の渋い肌を舞台として金銀を効果的に配し、器物と漢詩を結び付ける会津金工らしい堅実な技と豊かな趣向が表れています。
瓢箪、唐団扇、杖は道教の仙人を想起させる持物であり、表面ではそれぞれを広い余白の中へ簡潔に配しています。鉄地の落ち着いた肌へ金、銀、素銅系の色金を添え、瓢箪の丸み、唐団扇の輪郭、細く伸びる杖を明快に浮かび上がらせた構成は、華美に傾くことなく、いかにも文人好みの洒脱な趣を伝えます。小さな器物を控えめに置きながら、その背後に仙界の物語を想像させる余白の使い方にも、政秋の意匠感覚がうかがわれます。
裏面には、唐代の詩人杜甫が酒を愛した八人の名士を詠んだ『飲中八仙歌』のうち、李白を讃えた著名な四句を踏まえた文が刻されています。原詩は、
李白一斗詩百篇
長安市上酒家眠
天子呼来不上船
自称臣是酒中仙
「李白は一斗の酒を飲めば詩百篇を生み、長安の酒家で酔って眠る。天子に召されても船へ上がらず、自ら酒中の仙人と称した」という、李白の並外れた詩才と権勢に縛られない豪放な人柄を讃えた一節です。
本作には「李白一斗詩百篇 醉中往々酒家眠」と刻されています。冒頭の「李白一斗詩百篇」と末尾の「酒家眠」は原詩を踏まえながら、「長安市上」を「醉中往々」へ置き換え、李白が酔中しばしば酒家に眠る姿を、より率直で親しみ深い言葉によって表した洒脱な翻案です。原詩を知る者ほど思わず頬が緩む、江戸金工らしい教養と遊び心が感じられます。表に道教の仙人を象徴する器物、裏に詩と酒を愛した「飲中八仙」の李白を配することで、異なる二つの「八仙」を表裏へ巧みに響き合わせています。装飾を眺めるだけでなく、漢詩と洒落を読み解く楽しみまで備えたところが本作最大の見どころです。
附属の小刀には「藝州住藤原正光」の銘があり、小柄と小刀が揃った姿にも充実感があります。仙人の象徴を散らした表、文人趣味と機知を凝縮した裏、さらに銘入りの小刀という三つの鑑賞要素が一口に揃い、手元で表裏を返すたび新たな意味が立ち現れます。鉄味、色金、漢詩、言葉遊びを一度に堪能でき、江戸後期の金工が備えた教養と遊び心を存分に味わえる、収集家の心をくすぐる魅力豊かな作品です。