波濤龍図小柄(馬針付) 無銘 -Mumei- 16-211
通常価格:¥154,000
税込
波濤龍図小柄(馬針付)
無銘
-Mumei-
馬針を含めた全長210.0ミリ 小柄部分の全長94.7ミリ 幅13.3ミリ 重さ42.6グラム(馬針含む)
江戸中期~後期 The middle to late Edo period
附属 桐箱
龍は水を司り、雲を呼び、恵みの雨をもたらす霊獣として古来尊ばれてきました。天空と水中を自在に往来する超越的な存在であり、その姿には権威、守護、飛躍、立身の願いが託されています。なかでも荒れ狂う波濤を進む龍は、水を支配する霊力と、いかなる困難にも屈しない強さを一つの画面に表す画題で、激しく砕ける波としなやかに身を翻す龍の対照が豊かな動勢を生むことから、武家の刀装具にも好んで取り上げられました。
本品は深い黒褐色の地を覆い尽くすように波濤を肉高く彫り、そのうねりの間を進む一条の龍を金色絵によって鮮やかに浮かび上がらせています。龍の頭から長く続く胴と尾を画面いっぱいに展開し、鱗、爪、角、鬚を細かな鏨で描き分けながら、波頭の曲線と龍の身のこなしを呼応させることで、細身の画面へ驚くほど豊かな動きと奥行きを生み出しています。黒い波間から金色の龍が現れる対照も鮮烈で、正面では図柄の迫力、斜めからは波と龍が重なり合う彫りの深さを存分に楽しめます。
本品に収められているのは通常の小刀ではなく馬針です。馬針は馬の脚などに鬱血や腫れが生じた際、瀉血をはじめとする治療に用いられた馬医療の道具で、馬が移動や軍事に欠かせなかった時代の実用性を今に伝えています。小柄と同様に拵へ携行できる姿に作られ、なかでも装飾豊かな柄と馬針が揃って残る品は、刀装金工の鑑賞性に加えて武家の生活文化と馬医術の歴史まで感じさせるところが大きな魅力です。裏面の細かな筋目と波形に仕立てた輪郭も表の怒涛へ自然につながり、馬針を差した全体姿には道具としての引き締まった美しさがあり、豪壮な龍図、豊富な金色絵、実用の由来を一作で味わえる存在感豊かな一口です。