水辺樵夫休息図小柄 無銘 -Mumei- 16-208
通常価格:¥110,000
税込
水辺樵夫休息図小柄
無銘
-Mumei-
全長97.1ミリ 幅14.85ミリ 重さ23.6グラム
江戸中期~後期 The middle to late Edo period
附属 桐箱
樵夫は山に分け入って柴や薪を集め、人々の暮らしを支えた働き手であり、その休息を描く図には、日々の勤労を寿ぐ眼差しと、自然の懐でひととき身体を休める穏やかな情趣が込められています。華やかな英雄譚ではなく、名もなき働く人の一瞬を親しみ深く切り取ったところにこの画題の魅力があり、静かな山水の風情と江戸金工ならではの洒脱な人物表現を同時に味わわせます。
本品は緻密に打ち詰めた赤銅魚子地を深山の景に見立て、画面右側へ岩陰で身を横たえて休む樵夫、その背後へ岩間を落ちる滝、左側へ仕事の傍らに置いた柴の束を配し、細長い小柄の中に静かな山仕事の一場面を巧みに収めています。樵夫は片肘をついて身体を預ける寛いだ姿に表され、衣の柔らかな襞や身体の重みまで肉彫の高低によって自然に捉えられており、働く人の息遣いと滝音に包まれた山中の涼気まで想像させる絵画性豊かな構成です。
人物の手足には銀色絵を施し、深みのある衣の色調に明るい光を添える一方、脚絆と柴を束ねる紐には金色絵を用いて細部を鮮やかに引き締めています。滝から落ちる水にも銀色絵を施すことで、黒い赤銅地の中に清冽な水の流れを浮かび上がらせ、岩の頂部には苔を思わせる金色絵、右端の小さな草にも金色絵を配して、深山に差し込む光と瑞々しい生命感をさりげなく表しています。
人物、滝、岩、柴という一つ一つの要素を異なる彫り口と色金で丁寧に描き分けながら、余白を広く残すことで静けさを損なわず、近くでは魚子の精緻さと金銀の細工、離れて眺めれば山中で休む樵夫の穏やかな物語が立ち現れます。外周を巡る細い金色の縁取りは長い画面を端正にまとめ、裏面を覆う温かな素銅系の地色と表の黒紫色に沈んだ赤銅魚子地も心地よい対照を見せ、江戸後期の町彫金工が得意とした写実性と情趣、控えめな華やぎを存分に味わえる、鑑賞するほど細部の発見が深まる魅力豊かな風俗図小柄です。