乗合船図小柄 無銘 -Mumei- 16-205
通常価格:¥176,000
税込
乗合船図小柄
無銘
-Mumei-
全長95.35ミリ 幅14.4ミリ 重さ28.7グラム
江戸中期 The middle Edo period
附属 桐箱
乗合船は、多くの人々と荷物を一艘へ乗せて川や水路を行き交った江戸時代の交通風俗を伝える画題であり、限られた船上へさまざまな姿や営みを描き込むことで、旅の期待や水上の賑わい、人々の息遣いまで想像させます。本図には諸国を巡って芸を披露した猿廻しと猿も加わり、人だけでなく荷物や芸能までも運びながら町と町を結んだ往時の活気を、小さな小柄の中へ生き生きと凝縮しています。
本品は横長の小柄を一艘の船そのもののように用い、船首には一行の先頭を進む猿を配し、そのすぐ後ろには笠を被り、猿につないだ紐を手にする猿廻しを表しています。船の中央には人を乗せて運ぶ駕籠を載せ、その周囲へ身を寄せ合う乗客とさまざまな荷を密度高く配し、船尾には櫂を手に船を操る船頭を置くことで、船首から船尾まで自然に物語が展開する構成となっています。乗客の顔立ちや笠、衣服、姿勢を一人ずつ細やかに変え、猿の仕草から駕籠や包みの形まで作り分けているため、眺めるたびに新しい人物や持物が目に留まり、今にも人声や櫂の音が聞こえてきそうな臨場感を生み出しています。
黒味の強い地には船を取り巻く水面のうねりを細やかに彫り込み、波間に弾ける飛沫を銀象嵌で表すことで、暗い水面の上へ涼やかな光と確かな動きを添えています。船体、人物の笠や衣服、荷物の要所には金や赤銅、素銅などの色金を巧みに配し、豊かな彩りを備えながらも落ち着いた古色の中へ調和させています。さらに外周には極薄い金板を着せた覆輪を巡らせ、裏面も極薄い金板で包むという贅沢な仕立てが施され、表の賑やかな風俗描写と裏面の静かな金色が鮮やかな対照を成しています。船首の猿と猿廻しから、駕籠を囲む乗客、櫂を操る船頭へと視線を運ぶほど旅の物語が広がり、精緻な人物表現、多彩な色金、波飛沫の銀象嵌、金着せの仕立てまで余すところなく楽しめる、江戸の水上風俗を掌中に収めた鑑賞性豊かな一作です。