舟曳図鐔 無銘 -Mumei- 12-1801
通常価格:¥110,000
税込
舟曳図鐔
無銘
-Mumei-
縦81.4ミリ 横78.05ミリ 切羽台厚4.8ミリ 重量178.8グラム
江戸中期 The middle Edo period
附属 桐箱
舟曳は、岸辺から綱を取り、流れに逆らいながら舟を進める人々の営みを描いた風俗画題で、河川交通が暮らしと旅を支えた時代の情景を今に伝えています。華やかな英雄や故事人物ではなく、力を合わせて黙々と働く人々へ眼差しを向け、張り渡された綱と歩みをそろえる姿によって、水の流れ、風の気配、仕事の緊張感まで想像させるところに、この画題ならではの素朴で味わい深い魅力があります。
本品は大振りの竪丸形鉄地を広々とした河畔に見立て、表の下方へ綱を曳く二人の人物を配し、右側には岸辺から伸びる葦、上方には遠く横たわる山影を置くことで、限られた鐔面の中に近景、中景、遠景を備えた奥行き豊かな風景を作り上げています。二人の笠と足には四分一が用いられ、細く張る綱や随所の細部には金象嵌を施して、黒褐色の地鉄へ働く人々の姿を静かに浮かび上がらせ、岸辺の葦は茎を金、葉を赤銅で表すことで、細身の植物に繊細な色彩と生命感を与えています。上方の山は輪郭を鋭く刻まず、丸みを帯びた柔らかな彫りで遠景らしく霞ませており、静かな大気に包まれた河畔の広がりを感じさせます。
裏面には表と呼応する葦と水辺の岩を簡潔に配し、葦の茎を金、葉を赤銅で表すことで、人物を置かない静かな景色の中にも表面から続く色彩の流れを保っています。表裏とも水面には細い金の布目象嵌を幾重にも走らせ、途切れながら連なる金線が光を受けるたびにきらめいて、水の揺らぎと流れを鮮やかに伝え、黒褐色に落ち着いた地鉄、銀色に光る人物の笠と足、金と赤銅で彩られた葦が過不足なく響き合います。
離れて眺めれば余白を生かした静謐な山水、手元では二人の仕草、柔らかな山容、色金の細やかな取り合わせを味わえ、表裏を返すたびに川辺の物語が静かに連続する、風俗図鐔として鑑賞性の高い魅力豊かな一枚です。