太公望釣魚図鐔 無銘 -Mumei- 12-1763
通常価格:¥60,500
税込
太公望釣魚図鐔
無銘
-Mumei-
縦64.8ミリ 横59.5ミリ 切羽台厚3.8ミリ 重量67.0グラム
江戸中期~後期 The middle to late Edo period
附属 桐箱
太公望は古代中国・周王朝の礎を築いた名臣、呂尚の号であり、世に用いられる時を待ちながら渭水のほとりで釣糸を垂れ、のちに周の文王に見いだされて軍師となった故事で知られ、その姿は目前の利を追わず大志を抱いて時機を待つ賢者の象徴として、絵画や刀装具に繰り返し描かれてきました。
竪丸形の鉄地を広い水辺に見立て、右下には笠をかぶった太公望が木の根元へ腰を下ろして静かに釣竿を差し出す姿を高彫し、傍らには魚籠を添え、上方へ伸びる木の幹と枝を耳へ沿わせながら大きな透かしを景色の余白として取り込むことで、人物の周囲に水辺の静けさと奥行きを生み出しています。
人物の顔、笠、衣文、籠を細やかに彫り分け、釣竿と水際の線には素銅、木肌や水面の要所には金銀を控えめに交え、裏面では同じ人物と岸辺を異なる角度から見せるように図柄を連続させているため、鐔を返しながら木陰に座る太公望と渭水の景を一周して眺めるような趣があります。
広く残された黒褐色の鉄面と、右側へ寄せた精緻な人物彫との対照が実に印象的で、遠目には余白を生かした渋い鉄鐔、手元では太公望の表情や釣糸、水辺に散る色金まで読み解ける物語性豊かな一枚となり、立身の時を静かに待つという故事の含意も相まって、鑑賞を重ねるほど味わいの深まる愛蔵品です。
人物と木を地板の一隅へ集めた非対称の構成には、画面を装飾で埋め尽くさず静寂そのものを見せる巧みさがあり、江戸中期を思わせる古格ある鉄味と、後代にも通じる繊細な色絵の双方を備えています。