富士見西行図鐔 無銘(会津正阿弥) -Mumei (Aizu Shoami)- 12-1753
通常価格:¥60,500
税込
富士見西行図鐔
無銘(会津正阿弥)
-Mumei (Aizu Shoami)-
縦72.5ミリ 横68.5ミリ 切羽台厚4.6ミリ 重量129.0グラム
江戸中期 The middle Edo period
附属 桐箱
会津正阿弥は、江戸時代に会津地方で活動した正阿弥系の刀装金工です。会津では正阿弥一派が盛んに活動し、鉄地を主体として透、彫刻、象嵌などを用いた多様な鐔を残しました。正阿弥は各地に系統を広げていますが、会津においても独自の展開をみせ、江戸時代には同地を代表する刀装金工の一派となりました。
富士見西行図は、旅の歌僧として知られる西行法師が、道中で富士山を仰ぎ見る姿を表した古くから親しまれてきた画題で、典型的には笠や杖、旅包みを伴った西行を小さく配し、その視線の先に大きく富士を据えることで、旅人と霊峰との対比を際立たせる構図となっています。とりわけ西行を後ろ姿、あるいは斜め後方から描く例が多く、鑑賞者自身も西行と同じ方向に富士を眺めているかのような感覚を生み出し、単なる名所絵ではなく、旅の途上で自然と向き合う静かな時間や、無常観、孤独、人生への思索を感じさせるところにこの画題の大きな魅力があります。
西行と富士の取り合わせは、西行が東国・陸奥への旅の途中で富士を望み、その煙や姿に自らの心情を重ねた和歌を詠んだこととも結びつき、後世には絵画、工芸、茶道具、刀装具などさまざまな分野で繰り返し取り上げられました。刀装具においても、限られた鐔面の中に大きな富士と小さな旅僧を配することで、雄大な自然と人の小ささ、旅情と静寂、そして西行という人物が象徴する清廉と漂泊の精神を凝縮して表現することができ、文学性と絵画性を兼ね備えた格調高い画題として鑑賞できます。
本品は撫角形の鉄地を一幅の画面に見立て、雄大な富士を遠景に置き、金象嵌にて霞立つ雲を添え、裾野には笠と杖を携えた旅姿の西行を配しています。山容を低い起伏で静かに立ち上げ、霞や水辺の細線へ金の布目象嵌を添えることで、黒褐色の地に夕映えのような光が差し、人物を片隅へ寄せた余白の大きな構成が旅の孤独と詩情を豊かに伝えます。
華やかさを前面に押し出さず、沈んだ鉄色の中から富士と西行がゆっくり姿を現す趣こそ本品の魅力で、光の角度により金線が遠景から近景へ移ろうように輝きます。両櫃孔を景色の静かな間として生かした構図にも無理がなく、会津正阿弥らしい絵画性と侘びた旅情を併せ持つ、床飾りとしても手元の鑑賞品としても余韻の長い一枚です。