銀杏透鐔 武州住正方 -Bushu ju Masakata- 12-1745
通常価格:¥220,000
税込
銀杏透鐔
武州住正方
-Bushu ju Masakata-
縦69.7ミリ 横67.3ミリ 切羽台厚5.1ミリ 重量81.0グラム
江戸中期 The middle Edo period
附属 保存刀装具鑑定書、桐箱
正方は、江戸において鉄地の透鐔を発展させた武州伊藤派を代表する鐔工の一人です。江戸神田を拠点に活動した伊藤派は、締まりのある鉄地へ草木や家紋などを肉彫地透で端正に表し、必要に応じて金などの象嵌を添える作風で知られています。正方もこの伝統を受け継ぎ、とりわけ植物の姿をよく捉え、葉や茎の重なりを骨太な鉄の構成へ置き換えることに巧みでした。「武州住正方」「武州住伊藤正方」などと銘し、実用鐔としての堅牢さを保ちながら、江戸の工人らしい洗練と自然味を備えた作品を遺しています。
本作は、丸形の鉄地に銀杏葉を巡らせ、切羽台を包み込むような肉彫地透に仕立てた一枚で、一見して目を引くのは、葉を単純な文様として並べるのではなく、折れ、反り、重なりまで彫り分けながら円環の中へ豊かな動きを生み出した構成です。扇状に広がる葉脈は細やかでありながら鉄の力強さを失わず、枝葉の間に設けた透かしも大小に変化を持たせているため、光を通すたびに陰影が移ろい、正面だけでは分からない立体感が現れ、黒褐色へ落ち着いた鉄地の要所には象嵌の色が慎ましく残り、華美に傾くことなく、古色の中へ柔らかな光を添えています。
厚さ5.1ミリの量感ある地と締まりのよい耳は、繊細な銀杏の意匠を確かな骨格で支えており、手に取れば武州鐔らしい堅牢さが感じられる一方、眺める角度を変えれば葉の重なりと透かしの空間が次々に表情を変え、まるで風を受けた銀杏が揺れているかのような景趣を楽しめます。長寿や繁栄を想起させる銀杏という親しみ深い画題に、正方の巧みな肉彫地透、歳月を経た鉄味、抑制された象嵌が調和しており、拵に据えた際には円形のまとまりと色金が品よく映え、単独で鑑賞すれば葉脈に至る彫りの密度と透かしの妙が際立つ、在銘作としての収集性のみならず造形そのものに強く惹かれる逸品です。