桜草に群蝶図鐔 無銘 -Mumei- 12-1709
通常価格:¥220,000
税込
桜草に群蝶図鐔
無銘
-Mumei-
縦84.5ミリ 横80.9ミリ 切羽台厚4.3ミリ 重さ177グラム
江戸中期 The middle Edo period
附属 桐箱
桜草は、寒さの残る頃から春にかけて可憐な花を咲かせることから、訪れる春の喜びを感じさせる草花として親しまれてきました。本作では、地際へ豊かに葉を広げて花茎を伸ばす桜草に三匹の蝶を取り合わせ、静かに芽吹く草花と宙を舞う蝶の動きを一つの画面へ収めています。蝶は姿を変えながら成長することから再生や長寿を連想させ、二匹が寄り添う姿には夫婦円満への願いも重ねられてきた吉祥性のある意匠であり、春の生命力と穏やかな祝意を備えた、刀装具にもよく映える画題です。
本作は、堂々とした大振りの丸形鉄地を舞台として、桜草の葉を肉厚な高彫で立ち上げ、細かく刻んだ葉脈と柔らかく開く花弁によって、植物の瑞々しい量感を巧みに表しています。三匹の蝶は大きさや向きをそれぞれ変えて配され、二匹には金色絵を施して華やかな輝きを与える一方、もう一匹は赤銅の深い黒味を生かすことで画面へ引き締まった変化を加え、黒褐色の鉄地、艶やかな赤銅、温かな金色が響き合う色彩豊かな景色を作り上げています。
桜草の花や葉先、細い茎の随所にも金色絵を置きながら、装飾を一面へ均等に散らすのではなく、鉄地の広い余白を十分に残している点も見どころで、金色の蝶が暗い地から浮かび上がり、赤銅の蝶が陰影の中へ溶け込む対照によって、見る角度を変えるたびに蝶が花の周囲を舞うかのような動勢が生まれます。可憐な画題でありながら甘美一辺倒にならず、重厚な鉄味を基調とした落ち着きと華やかな色絵が品よく均衡しており、江戸中期の刀装金工に見られる洒脱な意匠感覚を存分に味わえます。
裏面には岩辺に春蘭を余情豊かに配し、根元から伸びる細長い葉と一輪の花、花茎に付く蕾を繊細に彫り表し、その一部へ金色絵を添えることで、表の華麗な群蝶図を受け止める静かな早春の景色へ仕立てています。表裏を通して植物の姿を丁寧に追いながらも構図に無理がなく、小柄櫃孔を赤銅で端正に埋めた色合いも鉄地とよく調和し、実際に刀へ装着されてきた歴史と、独立した金工作品としての完成度を併せて感じさせます。
縦84.5ミリ、重さ177グラムという量感は手に取った際にも確かな存在感があり、充実した肉置きと深みのある鉄色を土台として、桜草の柔らかな彫り、群蝶の軽やかな配置、赤銅と金色絵の巧みな使い分けを一度に楽しめる点が本作の大きな魅力です。遠目には金色の蝶と花が鮮やかに映え、近くで見込めば葉脈や羽の彫り分け、鉄地の落ち着いた肌合いが次々と現れるため、鐔掛けへ飾っても手元で鑑賞しても見飽きることがなく、大振りの鐔を好まれる方はもちろん、草花図や蝶の意匠、色金を用いた華やかな古金工を収集される方にもおすすめしたい、鑑賞性に富んだ鐔です。