十二支図鐔 遊洛斎赤文Yurakusai Sekibun 12-1380
通常価格:¥198,000
税込
赤文は性を桂野、名を正蔵と称し、寛政二年三月三日、越後国村上に桂野雲軒の次男として生まれました。兄に光長(鷺洲)、弟に忠吾(南山)がいる金工一家に育ち、素質と環境に恵まれた逸材で、青年期には江戸へ上り浜野一門に学びました。文政七年(1824年)には庄内藩から召抱えの声がかかり、この時には他藩からも要請されていましたが、赤文は生まれ故郷に近い庄内藩を選びました。その逸話からも解るように、各藩からその腕を認められた名工です。
桂野家史によれば、赤文は髭をたくわえ、一見常人とは思えない風貌であったと伝えられます。名人気質で気が向けば一心不乱に製作し、気が向かぬ時は誰に頼まれても造らなかったといいます。
生活は決して楽ではなかったものの、画家や職人の来客をもてなし、国情を聞くのが楽しみで、困窮する旅人に出会えば、宿料をやったり、衣類など分けてやるなど、手を差し伸べる情の深さも併せ持つ人物であり、酒を愛し、剽悍磊落な気性の持ち主であったといいます。
本作はいかにも四分一らしい色合いの鐔で、表面には文字で「子」「丑」を配し、巧みな片切彫で虎(寅)・兎(卯)・龍(辰)を刻んでいます。裏面には「未」「戌」「巳」の三文字を添え、同じく片切彫にて鶏(酉)・馬(午)・猪(亥)・猿(申)を描出。
表面は睨み合う龍虎に挟まれたおどけた兎、裏面は猿にそそのかされ猪が鶏の掛け声を待ちつつ馬と駆け比べを始めようとする…
一枚の鐔の中に十二支の物語を巧みに収めた構図は、赤文の卓越した技量を存分に示しています。細やかな鏨使いと遊び心溢れる構図により、観る者を一目で引き込む名品です。